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I'm Not Dead Yet

「I'm Not Dead Yet」
「Ken and Barbie」
「Cheap Date」
と聞いて、何のことかわかる人は間違いなくその筋の方だと思います。

上記のフレーズはすべてショウジョウバエの突然変異誘発遺伝子に付けられた正式な学術名だそうです。ニュースソースはやはりNPRの「All Things Considered」から。2月9日(現地時間)放送の「Krulwich on Science」で紹介されました。

昨日エントリーした「進化から見た病気」の中に、「がん遺伝子」は実は生物の発生に必要な遺伝子であった、という記述があります。最初に発見されたのががんを誘発する遺伝子としてであったため実に不名誉な名前が与えられたようです。この記述を読んで、たしか大学の生物の講義で「がん遺伝子」を「がん」遺伝子と呼ぶのは不適切かもしれないというような話があったのを思い出しました。
そんな思いをめぐらしていた最中のこのニュース。まさにタイムリーでした。

で、上の不名誉な名前が付けられた遺伝子はどんな遺伝子かといいますと

「I'm Not Dead Yet(INDY)」
通常よりも長生きするショウジョウバエにみつかった長寿遺伝子。モンティパイソンの映画「The Holy Grail」での有名なセリフ「Bring out your dead(死体はないか〜)」に対しゾンビが「I'm not dead yet(まだ死んでないぞ〜)」と連呼したのにちなんで命名。

「Ken and Barbie」
外性器を形成できないショウジョウバエ(もちろんケンとバービーはあのお人形のことです)。

「Cheap Date」
アルコールに強い感受性を示すショウジョウバエ。「Cheap Date」はスラングですぐ酔っぱらう人(つまりデート代が安くすむ)を意味します。

放送では他にも「過激派」「広場恐怖症」などとんでも遺伝子の名前が紹介されてますので、興味のあるかたはどうぞ。

ちなみにこの放送の趣旨は「とんでもない名前」の紹介じゃなくて、それがヒトの病気にかかわる遺伝子となった場合、ただのジョークじゃすまされなくなった、というものです。原題は「Fruit Fly Scientists Swatted Down Over 'Cheap Date'」、「チープデート」でハエたたきにあったショウジョウバエ学者。

新しい発見に名前をつけるのは科学者の喜びとするところであって、遊び心があってもまあいいか、と思えなくもないです。一見ふざけた名前でも強く他の科学者の印象に残るという利点もあるようです。問題はこれらの遺伝子がショウジョウバエにとどまらずヒトにも存在することが多々あるということ。ウィルスなどを介して遺伝子が運ばれる可能性もあります。医師が患者などの説明に遺伝子名を用いる場合など、今までは不都合な名前を適宜変更するのはOKとされていたようですが、今や情報化時代、隠し通すことは不可能となり内輪のジョークで済まされなくなったとのこと。

確かに自分の生死を左右する遺伝子に(仮に)「リカちゃん遺伝子」なんて名前がついているのを見つけたら憤りをかんじずにはいられないと思います。学術名委員会はすでに数種の遺伝子の改名を検討中らしいですが、ゲストであるシカゴ大学の教授曰く、
「学術文献からこのような名前が消え去ったとしても研究は続くし、研究の楽しさはかわらない。でも文化からは何かが消え去ってしまうだろう」と言ってます。

NPRは科学ネタが結構豊富だと思います。特に「krulwich on Science」はゲストの話と交錯しながら軽快なテンポで話がすすみ、ウェブサイトにも一部トランスクリプトがありますので、目を通しながらラジオを聞くといいリスニングの練習になりそうです。時間も7〜8分と短めです。もちろん、内容も科学ネタではあるけれど文化的背景とか世界情勢が織り交ぜられ、ただの科学ネタに終わらない所が魅力的です。

最近の放送では「Your Family May Once Have Been A Different Color」(あなたの先祖はかつて異なる皮膚の色だった)なんかも先の「ダーウィン医学」とあわせて聞くとおもしろいと思います。
by varoko | 2009-02-12 01:30 | 雑学

アメリカに住む4人娘ママのねえ、ちょっと聞いてな話


by varoko